"Плач Ярославны"
久々に『ロシア中世物語集』を読み返してみました。
『バツのリャザン襲撃の物語』には、変わらず苦い笑いを浮かべてしまいます。
誇り高きルーシ(後の"ロシア"の原型になる民族文化圏)の諸公を完膚なきまでに叩き、その地を略奪した憎きモンゴルの部隊長バトゥ汗(アセではありません「汗=ハーン(王)」です)に対する憎悪が半端ではありません。
「神を知らぬバツ」「奸佞不徳なるバツ」「二枚舌で残忍なバツ」「呪われたバツ」「邪悪なるバツ」・・・バトゥ汗の名を記す度に、著者が憎悪を込めて、思いつく限りの呪わしい枕詞を冠しています。
本当に口惜しかったのでしょう。
この伝記を書いたのはロシア正教のお坊様なのです。
これほどドロドロドロドロの憎悪を抱いていては、聖職者であっても、彼は浮かばれなかった(宗教が違うので憚りありですが、成仏出来なかった)のではないかと危惧いたしております。
『ロシア中世物語集』の白眉は『イーゴリ軍記』の中の『ヤロスラーヴナの嘆き』の項であります。
中学生の頃、岩波文庫の『イーゴリ遠征物語』で読んで、魂をつかみ取られてしまいました。
瞬時に「プリミティブな物語の中にあって、これこそは奇跡的な白眉・・・」と心が叫びました。
今もってしても・・・
"Плач Ярославны"
「ヤロスラーヴナの嘆き」
"Ах! Плачу я, горько плачу я,
слёзы лью
да к милому на море шлю,
рано по утрам.
Я кукушкой перелётной
полечу к реке Дунаю,
окуну в реку Каялу
мой рукав бобровый.
Я омою князю раны,
на его кровавом теле."
ドナウの岸べに漂い来るのは、あのヤロスラーヴナの声なのである。
「ああ!私は、私は慟哭する、涙する。
朝早く、私は、水辺に我が愛を送る。
私はカッコウ鳥となって、ドナウ河を飛んで行こう。
カヤーラの流れに海狸の袖を浸そう。
そして、愛しきイーゴリ公の血まみれのお体の傷口を、
その袖で、おぬぐいいたします。」
(私の意訳です。もっと良い訳は世に多くあります。そして続く数節も☆)
そして、お国は変わりますが、『四面楚歌』における、項羽の辞世の詩と愛妾虞美人の掛け合い。
「力拔山兮 氣蓋世
時不利兮 騅不逝
騅不逝兮 可奈何
虞兮虞兮 奈若何」
これに和して、虞美人
「漢兵己略地 四方楚歌声
大王意気尽 賤妾何聊生 」
これらを想うと自動的に落涙いたします。
「BWV147」や「Danny Boy」を聴いても。
まあ、単純頭なのでしょう。
でも感涙のツボがあって幸せです。
単純であっても、涙すると、不思議に救われる時もあります。
・・・・・・・
イラスト館たま、・・・
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